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静かな、それは久し振りに風の少ない夜だった。
落し気味の照明の中、読みかけていた本を読み終えた私はソファから立ち上がると、次に読むための本を選びに、いつもの書棚に向かった。就寝前に1時間ほど、気になった本を読むのが私の日課である。
本の種類は、大好きな時代小説の新刊だったり、買っただけで読まずに積んであるビジネス書だったり、時には一度読み終えたものを再度手に取って読み返す事もあった。
書棚に向き合った私は、目線より少し上の縦横乱雑に積んである買い置きのビジネス書を手に取る事無く、膝下辺りの棚に集中している時代小説に目を向けるでもなく、棚の上の方にある(これは書棚に残して置こう)と思った本がストックしてある段に目を向けると無意識に、それは吸い込まれるようにという表現がピッタリ来るほど自然に、白地に赤い文字でタイトルが書かれた本を手に取った。

【日本でいちばん大切にしたい会社/坂本光司 著】

本の内容は、会社が大切にすべき5つの人は「従業員とその家族」→「発注先の人とその家族」→「お客様」→「地域の人々」→「株主」の順番であると説かれたもので、それらについて事例がいくつか書かれているものだ。

その素晴らしい内容に感銘を受けた私だったが、以前に読んだときには、その熱く使命感に燃えた経営者達の事例をモノにする事ができず、自分に対する情けなさを抱いただけで終わってしまった。「いつかは……」という想いだけが残り、自らが成長した時に再び読もうという決意と共に、書棚に入れておいた本だった。
手にとった本の目次を見返しながら、ソファへと歩く。目次の言葉を見ると、その内容が意識の中に流れ込んでくる。「あぁ、そんな内容だったな。」そう思いながら本文に入ろうとすると、ひとつの事例と自社が、なんとなくだが少し重なったように思えた。
慌てて目次を見直す。これだ。障がい者雇用率80%のチョーク製造会社。本文へ行き、その事例を読み返す。なぜ?なぜできる?成功の要因を探す私の目に飛び込んできたのは、ほんの1行の言葉だった。【人を工程に合わせるのではなく、工程を人に合わせる】という言葉。

「・・・ルーチン化?」

心の中でつぶやくと同時に、何年か前アルバイトで軽度の障がい者に作業の手伝いに来てもらった記憶が、鮮明に甦ってきた。
あれは個人宅の庭ではなく道路の両側にある街路樹の枝を切って片付ける作業だった。すでに作業全体のルーチン化ができていて、その作業を更に1段階切り分ける事によって、経験から来る高度な業務判断が必要ない、単純労働のルーチンワークを生み出したのだった。

「道路の街路樹作業では完璧とはいえなくてもできた。では、舩越造園の仕事全体ではどうだろうか?効率を損ねる事無く、もっと細かく切り分けられないだろうか?」

自分の頭の中で物凄い勢いで回転していく思考に、お得意様から頂いた言葉が重なった。

「草刈りはしているのに草取りはしないの?」

草取り。それは、草刈機の刃が入らない植え込みの中や、細かい砂利敷きの中などに生えた雑草を手で抜いたり切ったりする作業。庭木の手入れ技術や造園技術を覚えた職人がするには、同じ仕上がりでもシルバー人材などと比較すると高コスト化してしまい、今まではお施主様に話を向けられても「庭木の手入れと違って技術的な事はほとんど必要無いですから、シルバー人材センターさんにお願いする方が安くて良いのではないですか?」とお伝えしていた作業だった。

元々、時間と作業のバランスから高コスト化が避けられずに会社では対応していない業務。それは、すでに作業上ではルーチン化の切り分けができている事を示していた。草を取る作業は技術訓練も少なくて済む。後は、気候対策や業務の進め方、そして何より仕事を受注してくる営業活動。私が今までしてきた事じゃないか!
できるかもしれない。障がい者の方に、日々空き缶を黙々と潰している人達に、仕事の喜びを感じて頂けるかもしれない。
早速、授産所連合会の川上さんに相談してみよう。どこかで、何かが動くかもしれない。
そこに、何か尊いものが生まれた気分が込み上げて来た私は、しばらく眠りにつく事ができなかった。

・ ・ ・

 私は川上さんに連絡を取り、草取り事業に興味の有る障がい者施設の方と会いたい旨を話した。川上さんは喜び、多くの障がい者施設に声を掛けて下さったようだった。実際の説明会には、3つの施設から担当者の方が聞きに来られた。
舩越造園事務所の会議室に施設の方が3箇所から2名づつ、授産所連合会の川上さん、部下の方、そして私の9人が集まった。手狭な会議室なので9人も入れば一杯だ。皆、デスクに備え付けの椅子や3人掛けソファなどへ思い思いに座る。

「私が皆さんにご提案したいのは、簡単に言えば草取り仕事です。私が草取りの仕事を受注し、値段交渉をし、決まった仕事を、皆さんのスケジュールをお聞きしながら先方のご都合とすり合わせ、作業に入るまでをコーディネートいたします。具体的には・・・」

皆、私の話を真剣に聞いてくれた。担当者の方々からは前向きに取り組もうという感じが伝わってくるが、その奥にある不安も感じていた。それも当然だ。こうして施設を運営されてきて今まで、やった事の無い仕組み。前例の無い事。不安は尽きなくて当然である。

「集団で出掛けて行き、仕事をしてくるという経験が無い」
「漠然としたものだろうけれども、発注してくれる方に不安が無いか気になる」
「施設単体ではとても対応できるほどの人材がいない」

施設の担当者から次々と質問が挙がる。私は、それらの質問にひとつずつ答えていく。解決のためではなく、理解を頂くために。こういった話はどこまで細かく話しても、結果としてやってみなければ本当の事はわからない。実もフタも無いようだが、その真実を丁寧に伝えて理解を得るしかないのだ。

結局、仕事の話があれば作業してくれるという施設は2つになった。私は、更にそれらの施設との理解を深めるために、実際の営業活動に先立って、それら施設を個別に訪問し、彼らの日常に触れた。
プレハブを繋ぎ合わせた簡素な建物に、彼らはいた。そして、いつもの作業をしていた。
空き缶を手馴れた様子で潰す姿、自動車部品の内職を黙々とこなす姿、狭い部屋で輪になって裁縫をする姿、そこには、当たり前だが人々の生きる姿があった。

私は、そんな姿を見て大きな使命感のようなものが湧き上がって来るのを感じた。「施設」と、ひとくくりに呼ぶのは簡単だ。今までその言葉を口にした時には、何のイメージも無かった。
だが、これからは違う。「施設」という言葉は便宜上の話であって、その言葉を口に出す時には、この人々の営みを思い出そうと心に誓った。彼らに仕事を、仕事をする喜びを、その可能性を運んで来る事ができるのは、私なのだと。
会社に戻った私は、自身の予定表を総見直しする事から始めた。造園業の営業活動に加えて彼らへの草取り仕事も受注して来なければならないからだ。

使命感を燃やし、様々な場面で告知を続けた私の元に、草取りの初依頼が来たのは、それからしばらく後。寒さも癒え、草木が目を覚ました4月の事だった。問合せを頂いたのはエドワード社。それは浜松では屈指の、日本でも名前を言えば「あ~あの」とうなづく、大企業からの問い合わせだった。

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